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中学校3年のときの作文 「横浜の夜」

修学旅行記
加納岩ヤ学校 昭和四十二年度 一二年

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横浜の夜
        林真理子

 片手に昼間潮干狩りでとった貝を持ち、昨夜の寝不足と疲れで、
よろよろしながら私は、バスから降りた。
 私達が、最後のバスで、前に着いた人たちは、もうロピーに整列
している。「急がなければ」と思った瞬間、私は敷き物につまづい
て見事に転んでしまった。転んだのは、朝からこれで二回目だ。全
く今日の私はどうかしている。顔から火の出る思いでみんなのあと
をぞろぞろと部屋に向かった。
 高い二段ベッドの並んだ狭い部屋が、私達の一夜の城である。荷
物をとくひまもなく食事の時間となった。食堂へ入って驚いたこと
には、ベルトコンべアで食器が、動いていることだった。セルフサ
ービスと前から聞いていたが、まさかこんなものだとは、思わなか
った。
「学生会館」と名のるだけあって味こそ東京風のあっさりしたもの
で、口に合わなかったが、カロリーといいボリュームといい昨夜泊
まった日光の旅館に比べると、さすがにゆきとどいていた。
 食事が、終って部屋にもどってから私は夕べの、夜ふかしとおし
ゃべりが、たたってひどいかぜ声になってしまった。昨夜は、三時
間ぐらいしか寝ていないので、今夜こそぐっすり眠ろうと目を閉じ
たが、電気が明るくついているのと話し声でなかなか眠れない。
「女三人寄ればかしましい」と昔の人はうまいことをいったものだ
が、この部屋には、三人の七倍もいるのだからそのかしましさたる
やお話にならない。私もその同類に入るらしくみんなの話し声を聞
くと、さっきのけなげな決心はどこへやらじっとしていられなくな
つた。かすれた声でしゃべれるだけしゃべってうとうとする目で、
遊べるだけ遊んだ。頭が、がんがんする。ふととなりのベッドをの
ぞくと渡辺さんが、かすかな寝息をたてて、静かに眠っていた。
「もう寝よう」と私は思った。
 目をとじて深呼吸した時なぜか今、—全く不思議なことに——初
めて修学旅行で横浜に来ているのだという実感が、ひしひしと胸に
伝わってきた。そして、私はいつのまにか深い眠りについた。


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